画像から意味のある特徴を完全に抽出するのは非常に難しく,画像理解は不完全で不正確な情報に基づいて推定を行うことでしか実現できていない現状がある.そのため,重要な中心課題となるのが領域抽出であり,その結果の良否は画像理解システム全体の結果に大きな影響を与える.
Kassらによって提案された動的輪郭モデルSnakeは,画像中の対象物の輪郭に最も近い形状において最小となるエネルギー関数を定義し,対象物の輪郭を求める問題をエネルギー最小化問題として解くものである.このエネルギー関数は, 対象の形状に関するエネルギー項と画像濃度に関するエネルギー項からなり,各エネルギーのバランスを決定付けるパラメータを適切に調整することで様々な形状の抽出を可能にする.Snakeは原理が単純であることに加え,閉じた輪郭をモデル化しているため閉領域を安定して抽出でき,また,対象物の特徴についての知識を抽出処理に埋め込むことが可能である.このような優れた性質をもつため,盛んに研究が行われている.しかしながら一般に,初期閉曲線によって解が変化することや,目的の輪郭に適したパラメータの選定が難しいこと,さらにSnakeは輪郭に沿った局所的な画像特徴の情報に強く依存し,対象と背景において特徴量分布が複雑な場合や特徴量が不足している場合に抽出精度が低下するといった問題がある.これらのSnakeの精度を低下させる最大の要因の1つは,対象画像の特徴量分布とパラメータ調整されたエネルギー関数によって設定されるSnakeの解空間が多峰性の複雑な形状になり,局所解が多数存在することが挙げられる.本論文では,このような問題を改善するために分散協調を取り入れたSnakeを提案する.
分散協調処理では,独立性,自律性をもつ複数の知的エージェントに問題解決を分散化し,エージェント間での情報の共有と協調を行い,これによって与えられた解空間における局所解への誤収束を回避し,最適解に到達する可能性を高める方策である.各エージェントはそれぞれ問題解決を並行して進め,同時に解候補を探索する.探索途中,各エージェントはその途中経過情報を他のエージェントと交換し,他のエージェントから受け取った情報に基づいて自身の探索経過を修正する.以上のような情報の共有と協調動作によって,エージェントのどれか1つが局所解に陥りそうになっても全体としてそれを回避し,高度な探索能力を実現しようとするものである.一般的に,分散協調化がもたらす効用は,(1) 多数のエージェントが協力して問題解決を行うため,全体の処理能力,処理効率が向上する,(2) 単体では問題解決の不可能な問題でも,多数のエージェントによる協調動作によって問題解決が可能になる,(3) あるエージェントが問題解決に適していない場合であっても,他のエージェントによって補うことが可能であり,より柔軟な問題解決が可能になる,(4) エージェントの追加によって用意に拡張,機能追加が可能になる,などが挙げられる.
本論文で提案する分散協調型Snakeは,上記のような分散協調を輪郭抽出処理に取り入れることによって輪郭抽出処理における柔軟性と拡張性の実現を目指す.すなわち,Snakeのもつパラメータ組や局所的な画像特徴量への依存性といった脆弱性を改善し,より安定した抽出処理を行うことによって抽出精度の向上を図る.
具体的に本論文では,単一領域に複数のSnakeを適用して協調させるが,同一の初期閉曲線から探索を行うエージェントによる分散協調について論じる.これらのエージェントには,パラメータ組を変えるもしくは与える画像データを変えるなどして異なる解空間を与える.各エージェントは与えられた解空間を独自に探索し,その過程においてエージェント間でエネルギー勾配情報を共有,その情報に従って自身の探索過程を修正する.以上のような動作によって,局所解すなわち偽の輪郭への誤収束を回避し,より高精度な輪郭抽出を目指すことが可能になる.本手法はこのように,非常に簡素な設計でありながら,それだけでも精度向上をもたらすだけでなく,様々に提案されてきた従来のSnakeの改善手法と排他的に競合することなく,併用して更なる精度向上を見込むことができるという大きな特徴を有し,拡張性のある輪郭抽出手法である.本論文では,実験を通して本手法の有効性を検証した.また,応用としてリモートセンシングのマルチスペクトル画像における輪郭抽出実験を行い,本手法の有効性を示す.
本論文は次のように構成される.第2章では,動的輪郭モデルの原理と問題点,またSnakeの改善手法として提案された従来手法について述べる.第3章では,分散協調処理の概要と画像理解システムにおける分散協調システムの概要を述べることにより,本研究の着眼点を明確にする.また,第4章でSnakeに分散協調処理を適用した新たな方式について述べ,第5章で人工画像および実画像を用いた実験と有効性について論じる.第6章ではリモートセンシングにおけるマルチスペクトル画像を対象とした応用を示し,第7章で性能評価を行う.最後に第8章は,本論文の研究成果と残された課題である.