Doctor Thesis Abstract (in Japanese)
博士論文要旨

Studies on Communication Strategies in Cooperative Search

楢崎 修二
1996年2月

本研究は,分散探索における通信量の動的な制御方法を提案するものである.

分散処理における通信には,プログラムの意味上では必須ではないが,プログラムの処理効率や質を改善する可能性があるものがある.このような通信を随意通信と呼ぶ.随意通信の必要性は通信コストや各処理実体のその時点での処理状況に依存する.従って随意通信は動的な制御を必要とする.従来考えられてきた分散・並列処理ではその処理実体間の関係が静的に決定されたものをプログラムとして与えていたため,後者の通信の影響についてはあまり研究がされていなかった.しかし,分散人工知能やマルチエージェントシステムなどが対象とする問題は,個々の処理実体での処理内容を大域的な必要性から動的に決定しなければならないという特徴を持つ.従って随意通信の影響が大きく,その制御が問題となる.本論文は分散人工知能の基礎問題である分散探索における動的に更新される共有知識の随意通信に関する制御方法を提案している.

第1章は,まず分散人工知能やマルチエージェントシステムについて説明し,通信という点からみたそれらの特徴について述べている.

第2章では,まず従来の分散人工知能の研究における,通信量制御に関する研究を挙げている.多くの研究において,通信量の制御の必要性が指摘されている一方,具体的な汎用の制御方法がほとんど提案されていないことが明らかになる.そこで,通信量を制御するための基準尺度として通信の効用という概念を導入する.通信の効用は通信に要するコストとその通信の結果得られる利得から定義されるものである.通信対象数および通信頻度の変更による通信コストの制御が大規模な分散問題解決において有効であると述べている.最後に,効用を決定する際に必要な情報の局所性を解消する手法として,他処理実体の正確なモデルを作成するのではなく,自分自身の持つ情報から全体での処理状況を推測する方法を提案している.これは処理実体が均質であることを仮定しているが,処理の状況を特徴づける変数の局所的な変動履歴を基に他の処理実体での変数の分布状況を外挿するというものである.

第3章では,対象問題を分散探索に限定し,具体的な制御方法を提案している.分散探索での制御対象となる通信の内容は問題の性質を表す制約である.本研究では閾値のような全ての探索実体が解釈可能であり,全順序があるものを対象としている.まず,通信コストを考慮した分散探索の処理時間のモデルを作成している.最初に提案するのは通信対象数を決定する制御方法である.通信の効用を計算するためには利得の計算を行なわなければならないが,制約の値自身によって近似する方法を提案している.通信対象数の変更は,階層を持たない均質な構造上でのものと,クラスタ階層構造上でのものが考えられるが,併用の必要性があることを示し,動的に均質構造とクラスタ階層構造を使い分けるためのプロトコルを提案している.次に通信頻度を変更する制御方法を提案している.頻度の変更を考慮した処理時間モデルで通信頻度の与える影響を議論し,同期して同報を行なう処理システムでの頻度決定式を与えている.最後にこれらの制御方法を組み込んだ処理実体の内部構成を示している.また2章で提案した,局所的処理履歴に基づく変数分布推測手法の評価を行ない,妥当性を検討している.

第4章では,実験を通して,提案した制御方法の評価を行なっている.対象問題として巡回セールスマン問題を用いている.実験結果は提案したいずれの制御方法も静的に通信量を決定するものよりも早く探索を終えている.処理の状況に対して通信量は合理的に変化しており,本手法の有効性を示している.次いで本手法の有効性を考察するため,A*探索や探索以外の問題への適用可能性について考察している.処理状況を特徴づける変数を問題に応じて定義することによりそれらへの適用は可能であると結論づけている.

第5章では,通信量の制御手法を問題そのものとは独立して記述する手法について述べている.通信量の制御手法そのものは問題によらず一般性が高いため.プログラムの再利用を図ることは重要である.まず,情報の通信は局所的な状況の変化に続いて行なうべきものであることから,随意通信は通信対象の更新に対して定義されたメタレベル計算であるべきだと述べている.そこでメタレベル計算の記述が可能なCLOS MOP(Common Lisp Object System Meta-Object Protocol)を用いて試みた実装の方針について説明している.また,プログラム例を通して,本実装での分離記述能力を検証している.

第6章は本論文のまとめを行ない,今後の課題を述べている.


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