ユビキタスという言葉が一般的な単語として認識されるようになっていることに象徴されるように,現在,身の回りに数多くのコンピュータが存在し,さらに,それらから提供されるサービスも多様化してきている.そういったシステムが,各ユーザの求めに応じて提供しているサービスの内容を切り替えるには,それぞれのユーザに関する情報を把握する必要があるが,サービス提供を行なうごとにユーザに要望の入力を求めていては,ユーザの負担が大きくなってしまう.また,ユーザの情報を中央サーバ等で一元的に管理すると,ユーザが情報を入力する手間は省かれるが,ユーザ数が多いときにサーバの負荷や通信コストが増加し,サービスの応答性も低下する.
そこで我々はこれまでに,ユーザ情報を保持しつつ,ユーザに随伴してネットワーク上をユーザの近くにあるコンピュータへと移動していく随伴エージェントを,モバイルエージェントを利用して作成し,エージェントと各地のコンピュータが連携してサービス提供を行う,随伴エージェントシステムを開発してきた.これによって,ユーザそれぞれの好みや希望に応じたサービスを,分散環境でもユーザに負担をかけない形で提供できるようになった.しかし,随伴エージェントシステムでの提供が考えられるサービスの中には,例えばエアコンの自動設定など,同じ場所に複数のユーザがいた時に,ユーザごとの希望に応えることができないものがある.
本研究では,エージェントの相互交渉をシステムに導入することで,この問題の解決を図った.随伴エージェントシステムにおいて,あるコンピュータから複数のユーザがサービス提供を受けていて,サービスの競合が生じた際には,交渉によってエージェントが保持しているユーザの要望の調整,調停を行ない,ユーザたちの不満ができるだけ小さくなるように提供するサービスの内容を決定することで,複数ユーザに対応できないサービスも随伴エージェントシステムで提供できるようになった.
また,実装化の一例として,交渉が必要なサービスと必要でないサービスをそれぞれ実装し,それらが働く随伴エージェントシステムを複数のユーザが利用するシミュレーションプログラムを作成し,システムがどのように働くかを示した.