アドホックネットワークとは,無線通信機能を有する端末同士が,自律分散的に協調して構築するネットワークである.アドホックネットワークでは通信メディアである無線をノード同士が共有するので,複数の通信が発生するとメディアの利用の競合が起こる.ゆえに,通信経路の重複はメディアの競合を引き起こす.また一般に,アドホックネットワークのルーティングプロトコルは,通信を行うノード間で最短路に近い経路を構築するという特徴を持っている.したがって,従来の方法では経路の重複が考慮されず,特定のノードの周辺で通信の競合の多発による輻輳が引き起こされる.その結果,ネットワーク内ではネットワークリソースにかかる負荷に偏りが生じ,ネットワークのスループットが低下してしまう.
この問題点を解決するために,アドホックネットワークでは過負荷のノードを回避した経路構築方法が提案されている.アドホックネットワークの経路構築は,一般的に送信元ノードがフラッディングした探索パケットを宛先ノードが受信することで達成される.提案されている負荷分散方式では,各ノードはチャネル利用率などから各自の混雑度を計算し,探索パケットに記録していく.宛先ノードは受信した1つ以上の探索パケットから,最も混雑度の低い経路を採用することで,負荷分散を図っている.
一方,アドホックネットワークでは,様々なサービスを提供する上で,マルチキャストも重要な技術である.さらに,マルチキャストのアプリケーションとして期待される音声や映像の配信は,ある程度のスループットを要求するため,マルチキャストにおける負荷分散はまた重要であると考えられる.
そこで,本研究では,アドホックネットワークのマルチキャストにおける負荷分散型の経路制御方式を提案する.一般的に,マルチキャストを行うときは送信元から各メンバへのツリーを作成する.新メンバがマルチキャストグループに参加する場合,自らを接ぎ木するツリー上のメンバを探すが,提案方式では,その際に上記の負荷分散方式を応用し,負荷の偏りの少ないツリーを作成する.しかし,他のマルチキャストグループやユニキャスト通信の影響により,構築されたツリーの一部 (サブツリー) の負荷が高くなってしまうことがある.本方式では,そのような場合,負荷が高くなったサブツリーを,負荷の低いツリー部分に張り替えることで対応する.
本研究では,この提案方式を実現するプロトコルの設計を行った.