Doctor Thesis Abstract (in Japanese)
博士論文要旨


広域分散環境における柔軟なサーバ選択機構に関する研究

下川 俊彦
2001年2月

現在,インターネットは様々なサービス提供が行われる社会基盤の一つとなった.提供されるサービスは,電子商取引や映像・音楽配信など非常に多岐にわたる.また利用者の数は,従来のものとは比較にならないほど大規模である.この結果,利用者からの処理要求の集中という問題が表面化してきた.サービスを提供する計算機やネットワークの処理能力を越えるほどの処理要求が集中することで,サービスの提供が一時的に不可能になるような事態も発生している.この問題は社会問題化してきており,解決策の提供が急務となっている.

これを解決するには,利用者の増加に耐え得る処理能力を有するサーバシステムを構築しなければならない.どの程度まで処理能力を拡張することが可能か,という程度を規模適応性と呼ぶ.サーバシステムの処理能力は,サーバ計算機の処理能力と,サーバ計算機とインターネットを繋ぐネットワークの処理能力によって決まる.単一サーバによるサーバシステムの規模適応性には限界がある.複数サーバを用いても,局所的に配置した場合には,それらを配置したネットワークの処理能力の規模適応性に問題が生じる.そこで,複数のサーバを広域分散的に配置した構成を用いることが有効である.このような構成を広域分散型サーバと呼ぶ.広域分散型サーバを効率的に稼働するためには,処理要求を適切に分散させることが重要な課題となる.このためには,各処理要求毎に,広域分散配置したサーバの中から最適なものを選択する必要がある.しかし,この分野の技術は確立していない.処理要求の振り分けを「サーバ選択」と呼ぶ.また,サーバ選択の際に最適なサーバを選択する方針のことを「選択ポリシー」と呼ぶ.従来,サーバ選択についての整理された議論はほとんどなされていない.

本論文は,広い適用性を持つサーバ選択機構に関する研究をまとめたものであり,6章からなる.

第1章は序論であり,本研究の背景をまとめ,本研究の目的および本論文の構成を説明した.

第2章では,本研究の研究課題であるサーバ選択機構について議論した.まず,サーバ選択について説明した.次にサーバ選択における選択方針である選択ポリシーについて述べた.さらに適用性の広いサーバ選択機構を実現するために考慮すべき点を6点にまとめた.「規模適応性」「利用者透明性」「サービス非依存性」「実装非依存性」「サービス提供者非依存性」「選択ポリシーの柔軟性」である.また,既存のサーバ選択機構をその実現方法を元に分類した.これらを,先にまとめた考慮すべき点に基づき検討を行った.

第3章では,サーバ選択機構TENBIN (Tenbin is Experimental Nameserver for Balanced INternet) を提案した.TENBINはサーバ選択の基盤としてDNS (Domain Name System) を利用している.DNSは,現在のインターネットにおいて名前解決のための標準となっているシステムである.DNSを基盤としたことで「規模適応性」「利用者透明性」「サービス非依存性」「実装非依存性」を実現できた.また「サービス提供者非依存性」を満たすためにもDNSの枠組みが利用可能であることを示した.「選択ポリシーの柔軟性」を満たすために,TENBINには選択ポリシーを埋め込まず,動的に選択ポリシーを組み込めるようにした.さらに,処理要求毎に選択ポリシーを切り替えることを可能とし,高い柔軟性を実現した.選択ポリシーを実現するために必要な,ネットワークの状態を収集する方法についても議論した.

第4章では,サーバ選択機構の実装について述べた.本研究ではTENBINのプロトタイプシステムを実装した.多様な選択ポリシーの実現方法についても議論した.実際に複数の選択ポリシーを実装し,その実現可能性を示した.

第5章では,プロトタイプシステムを用いた実験および評価についてまとめた.TENBINが,サーバ選択機構への要求事項を満たしていることを実証的に確認した.TENBINに複数の選択ポリシーを組み込み,選択ポリシーの柔軟性を確認した.また,広域に分散配置されたサーバを対象にサーバ選択を行った.この際,ネットワーク情報を能動的に収集する方法を用いてサーバを比較評価した.ネットワーク情報を用いた選択ポリシーを用いたことで,広域的なネットワーク間の接続状況の変化に対して,TENBINによる選択結果が自動的に対応することが確認できた.さらに,基盤としてDNSを用いたことによる限界を議論した.サーバ選択の段階では,利用するサービスを判断することができないという問題点についての解として,サービスを行うホスト名に関する提案を行った.また,サーバ選択をサービス提供者非依存に行う場合,サーバ選択に必要な情報が取得できないという問題点についても議論した.

最後に第6章では,本論文全体のまとめを行うと共に,今後の課題について述べた.


論文題目一覧